五月の花苑
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


 皆様にもお馴染み、三人娘らが通う女学園は、由緒正しき学園であるがため。その設備も ところどこで古めかしかったりもし。教室は窓も大きくてなかなか明るいが、お廊下はというと…方角によっては昼間でも薄暗い一角がありもする。窓から斜めに差し込む陽の眩しさとの拮抗が、何とはなく趣きがあってゆかしいなと、そう思えるようなお嬢様がたがそれは大事に使って来られた本校舎の一角。二階の教室にて、机をぴったりとくっつけ合うと、教科書やノートを開いているお嬢様が二人ほど。他の生徒の姿は見えぬが、居残りにしては先生もいないので、どうやら自主的に残ってのお勉強中であるらしく。来週の頭から中間テストがあるのだとかで、臨時の講習会といったところか。

 「…で、そこへさっき置き換えたXを (x−2)に戻して。」
 「え〜っと、ちょっと待って下さいな。」

 片やの少女が、落ち着いた声で最小限の助言を繰り出すのへと。教えられている側の少女が、ふっくらした唇へシャープペンシルのノック側をちょんちょんと押し当てて。先程 一通りを教えてもらった要領を“え〜っと”と頑張って思い出しているところ。三乗の公式で展開したところへ、元へと戻すんでしたよねと呟くと。手元のノートへさらさらと、展開式を書き記し始めて。こうして、こう来て、こ〜うなって…あ、出来たっ!

 「そっか、同じなところを見つけられたら良いのか。」
 「……。(頷)」
 「何だかクイズみたいですね。それか間違い探し?」
 「……?」

 あははと軽快に笑った平八だったのへ、ううう?と、喩えに微妙についていけなかった久蔵が仔猫のように小首を傾げたが、そのまま揃って、

  「暑い〜〜〜。」
  「〜〜〜。(同意〜)」

 うんざり顔で眉を下げつつ、ついついお顔近くを小さな手の団扇で扇ぐ仕草になるのも無理はなく。春秋のそれとはいえ、いまだに濃色の長袖セーラー服というのは なかなかキツい。ましてや、この週の頭までは少し寒いくらいの雨催いだったのが一転し、昨日一昨日は真夏日のところも出たほどのGW並みの暑さ復活で。窓を開けて風を入れていても、基本の外気温が半端じゃないので、あんまり効果があるとは言えず。じんわりとした暑さにたまらなくなってのことか、袖口のスナップを外すと、そのまま するするするっと勇ましくも腕まくりをしたひなげしさん。

 「誰も見てなきゃあ、スカートめくって脚も出したいところですよぉ。」
 「………。(…同感〜)」

 此処には二人しかいないからとばかり、微妙な発言をし、相手の久蔵もうんうんと大きく頷いたところ、

 「何ですか、そのはしたない言いようは。」

 計ったような間合いで そんなお声が飛んで来て。ちょっぴり高めの鋭い声音だったので、どひゃあっと肩をすぼめた辺りは、さすがにスレてもおらずのなかなかに可愛らしい驚きよう。間近にいた久蔵もまた、そんな平八と同じく…一見判りにくいながらも、内心では大きに“あわわ”と驚いていたものの、

 「ごめんごめん、待っててくれたんだのにね。」

 あんまり判りやすい反応だったのでという、軽やかな笑い声がすぐにも沸き立ち。それとともに、開いていたドアの陰から草野さんチの七郎次お嬢様が、いかにもお茶目な仕草、上体をちょこりと斜めにしつつ“ばあっ”とお顔を出したので。

 「あ、ひっど〜い。」
 「先生かと思った?」

 驚かさないでくださいようと頬を膨らませた平八だったものの、そんなのこっちもほとんど演技。先日無事に終わった五月祭の実行委員だった白百合さんであり、今日はその最後の集まり、報告反省会があったのだが。形だけのようなもの、監督責任者だったシスターからのご挨拶だけだというので、終わるまでと待っていた、こちらの彼女らだったのであって。

 「………?」

 だけれども…と、久蔵が愛らしい所作にて かくりこと再び小首を傾げたのは。手ぶらで出てったはずの七郎次だったものが、その手へ結構な“お土産”を持って帰って来ていたから。つややかで丈夫そうな紙袋には、濃緑というシックな色合いの中、見覚えのあるスタジオのロゴマークがあり、もう一方の手には筒状に巻かれた大きな模造紙と来て、

 「あ、シチさん、その模造紙はもしかして。」
 「ええvv 五月祭の写真を貼るんですよ?」

 さっきサナエ叔母様が持って来てくだすったのを、実行委員会でご披露していただいて。掲示用へ張り出すのに当初は皆で貼ろうと言ってたんですが、ヘイさんたちを待たせてたことを思い出し、

 「アタシが預かって、家で仕上げてくることになりまして。」

 それと、と。こっそり付け足したのが、昨年のことがついつい気になったんで、というフレーズではあったれど。それへは……お互いに似たような苦笑でスルーをしてから、

 「…見たいですか?」
 「勿論!」
 「……。//////」

 春の作付けが終わるこの時期、豊饒の女神に今年の豊作をお祈りしたのが始まりとされる、英国伝統の祭を模して。やはり新緑の中にて催されるのが、この五月祭というイベントで。復活祭ほどには あんまり外部の人には知られていないが、この女学園伝統の行事でもあり、日ごろお世話になっている後援者の方々をお招きし、ちょっとしたバザーやお茶会で おもてなしをするのと…もう1つ。此処へと通う少女たち全てが秘かに憧れるのが、この五月祭の主役“五月の女王”だと言っても過言じゃあないほど。新緑にいや映える、そりゃあ神々しい純白のドレスをまとい、メレダイアで飾られた、燦然と輝くティアラを頭へと冠せられる厳かな儀式は、おとぎ話の中のワンシーンのようでもあり。妖精の女王の戴冠式か、いやいや王子様へと嫁いだ少女が王族に迎えられる儀式なのよ…なぞと。それぞれにもっともらしくも囁き合ってた声が、あっと言う間に夢見るような溜息へ塗り変わるほど、そりゃあ麗しい女王が毎年選ばれており。

 「右京寺さんたら、風格もあって素敵じゃないですか。」
 「……vv」
 「陪臣役のユッコちゃんもサッチちゃんも可愛いしvv」

 おおお、何かどっかで聞いたようなお名前が。
(笑) 何しろ、基本 推薦制の女王様選びは、昨年度の女王とその陪臣役があまりに嵌まっていたがため、候補者推薦が始まったと同時、そのご当人らが今年は辞退する旨を公言した途端、微妙な波風があちこちで吹き荒れたらしく。

 「去年の戴冠式はいまだに話題になってましたよ。」
 「ヘイさんたら、その話は 無しって言ったのに。」

 だって美術部の新入生たちが言ってますもの、白百合様の女王が見たかったと そりゃあもう不平たれたれで…と。それでも多分に揶揄っぽい言いようで付け足せば、

 「それを言うなら、
  紅バラ様やひなげし様だって
  同じように残念がられておりましたけれど?」

 「え〜〜〜?」
 「〜〜〜〜。」

 言い返されたその途端、ほとんど同時という間のよさで、平八と久蔵が揃って“イヤなこった”と言わんばかりに眉とお顔をぎゅううっとしかめたのが。向かい合ってた七郎次には、何とも質のいい間のコントのように見えたほど。こちらのシリーズに馴染み深い皆様にはとっくにお察しなように、この三人娘も昨年の五月祭で女王とその隋臣の役を担っており。さすがは名物娘たちという面目躍如…ではあったのだが、

 「あんなものは 一度やればそれでいいんです。」
 「…、…、…。(頷、頷)」
 「まったくです。」

 同じ人物が何度もやるのは何だか白けてしまうしなどと、もっともらしいことを言ってるお三方なものの。実をいや、昨年度の女王になった話と来れば、別な騒動も微妙に思い出されるからだったりし。まずは、そのティアラにまつわる狼藉を受けかけた騒ぎに始まり、お次はそれを引き起こした連中のお宝目当て、学園内の家捜しに付き合わされて蒸し暑い想いをさせられた挙句、白百合さんの叔母様が危険な目に遭わされた事件も有りの。しまいには…というか、そちらは向こうから降りかかって来た種のものじゃあなかったが、そしてそこをややキツイめに叱られもしたが、か弱きガールズバンドのお嬢さんたちを守るべく、故買屋組織がらみだったおっかない連中を向こうに回しての、すっとんぱったんもありと来て。

 「……別に罪悪感まではないんですけれどもね。」
 「…、…。(そうそう。)」
 「ただまあ、
  笑いもって思い出してると、あんまりいいお顔されませんし…。」
 「…、…。(そうそう。)」

 くどいようだが、降りかかる火の粉を払って来ただけ。よく判らないながら関わって、窃盗団がからんでるらしいと判ったガールズバンド事件は、さすがに…大人へバトンタッチすべき間合いを見過ごしたかなと、大きに反省もしたけれど。頭と体が、三十代以上の大人とは逆の意味でついてってない行動派なのは、若さゆえ仕方のないこと、ご容赦いただくしかないもんねぇと。すっかり、箸が転んでも可笑しい、じゃないや。喉元過ぎれば…な お顔でいる辺り。


  大人であり保護者でもある、連れ合い男性陣の皆様。
  この夏も何か引き起こすかも知れませんぞ?
  このお転婆さんたちと来たら。
(う〜ん)


 ドレス姿なのは、女王と陪臣のみだけれど。他の少女らも制服へ礼服用の白くて長い尾を引くカバーを襟へつけた、特別仕様のかあいらしいいで立ちとなる式典なので。新緑の瑞々しい若葉したたる中にその白が映え、どのスナップもそれはそれは愛らしいものばかり。中でもやはり、

 「あ、シチさんいました。」
 「………。///////」

 肩まで降ろしていた金髪や、すべらかな頬の深みのある白さなぞを目映く映えさせた白百合さんの笑顔や、不意をついたか見返る肩越しの顔が何とも美しくフレームに収まっている写真がたくさんあって。これが掲示板へと一斉に張り出された折には、さぞかし欲しいとチェックなさるお嬢様方も多かろて…ということで、

 「さすがはサナエさん、需要というのを良く心得ておいでだ。」
 「何ですよ、その言い方は。あ、ほら久蔵殿ですよ。」
 「おおお、何かさりげなく周りに たっくさんの人が。」
 「………?(あれれ、いつの間に?)」

 聖歌隊の伴奏係もされたので、そちらの皆様とのお揃い、ローウエストでプリーツという、ぐっと古風なデザインのグレイのワンピースを着ておいでの晴れ姿もあり。つんとお澄まししている可憐さへ、けぶるような金髪が映えての、ビスクドールみたいな印象をますますのこと強めていて神秘的…なのは善しとして。本人も気づかぬほどの、いろんな人が必ずお隣や背後にいるのが何ともはや。大きなお役目ではなくとも、人気者な彼女らには あちこちからのお声も掛かっていたがため。結果、結構ばたばたっと忙しい日でもあったので、気配にいちいち反応していられなかった、元・紅胡蝶と呼ばれし 大剣豪さんだったようであり。……と来れば、

 「ヘイさんなんて、まあまあ、
  OGのお姉様がたに囲まれてる写真の多いこと多いこと。」
 「……vv (可愛いvv)」
 「うぅっとぉ〜〜。///////」

 いかにも大人びた装いの綺麗どころに必ずお顔を寄せられてのハイチーズが一番多いのは、何と言ってもひなげしさんで。

 「これ全部焼き増しですか?」
 「そうは行きません。」
 「???」

 だってこの方は、昨年の学園祭へのお菓子のリクエストをなされた、ゴロさんのシンパシーですし。こっちのお方も、時々八百萬屋にお顔を出してる、昨年起業なさって成功収めた やり手の女社長さんですし……。

 「………☆」
 「そっか、それがあったか、ヘイさんには。」

 相変わらずです、どのお人も。
(笑) ひなげしや紅ばら、白百合といや、この時期に花壇や花園を華麗に彩る代表的な花々でもあって。そこから愛称をつけられたらしき、こちらの麗しきお嬢様がたではあれど、中身はといや、微妙に…蓄積というか、別世界から持ち越した記憶というかがあるからややこしく。たとえば、

 「そういえば、アメリカでは微妙に学期がずれてるんですよね。」
 「ええ。」
 「あっちのお友達から、
  夏休みには帰って来ないの?とか聞かれないのですか?」

 進学の時期にもあたる、日本で言えば春休みのようなもので。その上、六月からという長い長いバカンスシーズンとも聞いており。ずっとアメリカ在住だったのだ、友達だってたくさんいようにと水を向ければ、

 「う〜ん。連絡がない訳ではないんですが、
  皆 忙しいんですよ、この時期って。」

 特に気を遣ってはないとの苦笑をしつつ、ひょいと肩をすくめたひなげしさんが言うには。今頃と言ったら、プロムの季節だからだそうで。社交界へのデビュタントというのはあちらでも限られた世界の話ですが、アメリカではこの時期、卒業式の後に記念のダンスパーティーが催されるのがお決まりなのだそうで。

 「…あ・そういや、バック・トゥ・ザ・フューチャーにあった、それ。」
 「…、…、…。(頷、頷)」

 そこへ、女の子はこぞって、ひらひらしたオーガンジーやキラキラのスパングルで飾った、華やかなセミフォーマルのドレスを仕立てて、彼氏にエスコートされて出掛けるんですよ、と。解説者よろしく、人差し指を立てて説明した平八が続けて言うには、

 「当人が該当学年じゃあなくとも、
  カレ氏やカノ女が卒業生の場合は、
  エスコート相手として同伴する例がなくはないとかで。」

 なので。皆、至近でのあれこれに何かと忙しいらしくてと、肩をすくめ、

 「私は私で、シチさんや久蔵殿と はしゃぐのが忙しいですしね♪」

 薄情と言われりゃあお互い様。実はこないだゴロさんに同じことを訊かれるまで、メールくらいしかやり取りしてない子ばっかなの、あらためて思い出したくらいですしと。チロリ、舌を出した平八であり。さばさばとしたお言いようなのへ…こちらもにんまり笑うばかりの、やっぱり割り切り上手なお嬢様方だったりし。

 「それじゃあ心置きなく、夏の予定も立てられますか。」
 「♪」
 「ホテルや列車の予約もありますしねvv」

 その前に中間テストのお勉強は?というお声かけは、あとあと保護者の方にお任せするとして。さぁさ、帰ろう帰ろう。あ、その写真貼り、わたしたちも手伝うね、ありがとーっと。はしゃぎつつも威勢よく、帰り支度を始めたお嬢さんたちを応援してか。初夏の風をはらんだカーテンが、ふわりふくらんでははためく白もそりゃあ目映い、とある午後の一景だった。






   〜Fine〜  11.05.19.〜05.20.


  *昨年はいろいろあった五月祭を、
   今年は無事に運んだねと ちょこっと回想していただきました。
   こうやって思い返せば、
   あれが様々な騒動の発端だったことも振り返れたワケで。
   ちっとは反省したんで
   推薦を辞退した七郎次さんだったのかも知れませんね。

   「あれ? でもじゃあ、アタシたち今年は三年生なのかしら?」
   「………。(いやいや。)」
   「もーりんさんたら、さりげなくも また二年生扱いにしてますことよ。」

   いやらしい言い回しをするでない。
(焦)
   そこんところはさりげなく流してくださいな。
   だって通年の行事を全部浚った訳じゃなし、
   書きそびれたあれこれも書きたいじゃありませんか。

   「去年の夏といや、何がありましたっけ?」
   「七夕までは、ケーキ焼いたりして無難だったんですが。」
   「…、…、…。(頷、頷)」
   「この女神様の衣装を着てのすったもんだとか。」
   「久蔵殿のお見合い騒動とか。」
   「〜〜〜。///////」
   「それと、ガールズバンドのお話とか。」

   大騒ぎした割に、海だって行ってないし、
   プールに行ったような話題はあっても水着も着てない。
   そうよそうよ、第一、……。

    「「「 誰もそれらしい“発展”してないし。」」」

   ……それも筆者の責任なんでしょうか?
(う〜ん)

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